法華碕

<法華碕>
房総と鎌倉往還船の発着場

 

 南無谷海岸の法華碕は、立教開宗の後、鎌倉弘教に向かった日蓮が、船をこぎ出した場所とされる。ここは、日蓮が房総半島と鎌倉を往還する際の、船の発着場であったようだ。その故事にちなんで、法華碕の名があるという。
 当時、房総から鎌倉へ向かう場合、多く海路がとられていた。流域に広大な湿地帯を形成している荒川や多摩川を渡る陸路では、時間がかかりすぎるからであった。
 古くから、房総半島の西岸には、保田、勝山、富浦などの津があり、三浦半島の東岸には、走水、六浦といった津が開かれていた。津とは港のことである。
 法華碕に、すずめ島と呼ばれている岩礁がある。胸を張り、白い岩肌を海風にさらして浮かぶ、ふくら雀のすずめ島は、背中に黒い海鵜をいっぱいとめている。
 晴れた日には、法華碕から富士がよく見える。早朝に見る富士もよいが、法華碕からの富士は夕暮れ時が殊に美しい。
 炎々と雲を焼きながら、太陽がゆっくり沈んでいくと、暮れ残る空に、富士は巨大な山体をシルエットにして浮かぶ。
 富士は千変万化する。季節によって、時刻によって。けれども、種々の変化相を現じても、富士はいつも悠然と、そこに立っているのである。

 

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