富士と日蓮大聖人 初版あとがき
本書は、昭和六十年五月三日から同年末まで「聖教新聞」紙上に連載された「富士を望む…日蓮大聖人ゆかりの地から」を改題してまとめたものである。
思えば、富士と日蓮大聖人の御事跡との間に、何か深い結び付きがあるのではないかと気付いたのは、南無谷の法華碕においてであった。
昭和五十五年二月のある日、法華碕に夕日の写真を撮りに行ったときのことである。炎々と雲を焼きながら、海を隔てた三浦半島に沈み行く真っ赤な太陽は実に美しいものであった。夢中になってシャッターを切って、太陽を見送った後、ふと、右手の方に目をやった時である。なんと、そこに富士が、巨大なシルエットで浮かんでいたのである。薄紅色をした夕空の中に、長い裾野を引いて浮かぶ富士は、想像をはるかに超える大きさであった。
南無谷の法華碕は、立教開宗された日蓮大聖人が、政都鎌倉弘教のために、船を出された場所とされている。私は、その時、日蓮大聖人は、富士を真正面にして、船を漕ぎ出されたのだと思ったのである。
そして、大聖人は富士をこよなく愛しておられたのだという思いは、大聖人の御足跡をたどることによって、ひとつの確信にまで高めることができた。実に、大聖人の激動の御生涯における妙法弘通の舞台背景には、佐渡期を除き、必ずといってよいほど富士があったのである。
そこで、大聖人が御覧になった富士を、大聖人ゆかりの地から、写真に撮ってみることを試みたのである。初め、プロのカメラマンに撮影を依頼したのだが、気象条件や、予算等の、さまざまな事情によって思うように作業が進まず、結局、一枚も撮れずに一年が空しく過ぎてしまった。
これでは、当初の企図を実現することは不可能だと、半ば諦めかけたとき、力強い協力者が現れたのであった。それが本書収録の写真三十三点中、十九点を撮影した大谷功一氏なのである。以後、大谷氏と私との撮影作業が開始された。
富士の撮影チャンスは、ほんの数分である。それも、大気の澄んだ早朝に限られる。
夏は午前四時ごろから、ひたすらチャンスを待ち、冬期の撮影は、毛布をかぶって、ふるえながら日の出を待った。雑木の枝を切り払い、撮影の足場作りに汗を流したことも、たびたびあった。撮影場所を決めるためだけに、何日も費やした。五、六時間待って、一回もシャッターを切らずに帰ってきたことが、何回もあった。
大谷氏も私も、本業の合い間を見ての撮影作業であるため、現地での滞在日数が限られており、もう一日とどまれば、天候が回復して、絶好の撮影日和になることが予想されても、涙を飲んで帰らざるをえないときが、多々あった。
しかし、こうした苦心を重ねることにより、一枚、一枚と写真点数が増えていったのである。そして、約五年の歳月を要して、三十三カットの撮影が完了したのであった。
この間、聖教新聞社車両部の方々には、献身的な協力と励ましをいただいた。もし、この協力と励ましがなければ、この企画は到底、実現しなかったであろう。感謝の言葉もないくらいである。
ともあれ、このささやかな一書を披見していただいた方の心に〝何か″が残り、あるいは、この書が日蓮大聖人の御足跡をたどる上でのよすがともなれば、それこそ望外の喜びとするところである。
最後に、この書の出版にあたって、宮城文化協会の大友悟郎氏には、大変にお世話になった。厚く御礼申し上げるものである。
昭和六十二年四月二十八日
撮影協力 大谷功一
昭和十九年一月、東京都大田区に生まれる。
紅陽会会員。
撮 影 <清澄山 由比ケ浜 芝川 山中湖 南無谷 法華碕 竜の口
三国峠 身延山 桜峠 三国峠 足柄峠 米ケ浜 岩本山
御殿場 車返し 波木井郷 御坂峠 池上>
取材協力 清水正一 井口邦郎 吉田一男 田中秋康 渡辺重明
原田健司 佐藤芳男 菊地今朝広 八戸 一 今川昭彦
松岡鶴夫 小倉邦彦 渡辺修三 吉原一夫
著者略歴 昭和二十年一月、京都市に生まれる。
立命館大学文学部哲学科卒業。
日本印度学仏教学会会員。比較思想学会会員。
現住所 〒980仙台市上杉三丁目七の十一
初版中扉献辞
「謹んでこの書を池田大作先生に捧げます」
初版奥付き
「富士と日蓮大聖人」
印刷 昭和六十二年四月二十八日 発行 昭和六十二年五月三日
著者 松岡 裕治
発行所 暁洲舎
印刷製本 ㈱宮城文化協会
〒980 仙台市木町五の二九 ℡.022(272)0185
Copyright;YuujiMatsuoka、1987 Printed in Japan
富士と日蓮大聖人 参考文献
大聖人御伝 大石寺日道(三師御伝土代) (1332)?
当家宗旨名目 本成房日実 (1461)
元祖化導記 行学日朝 (1478)
日蓮大聖人註画讃 円明日澄 (1510)
日蓮大士一代記 〃 ( )
大聖人一期記 妙本寺日我 ( )
祖師伝 広蔵院日辰 (1559)
元祖蓮公薩埵略伝 円智日性 (1566)
日蓮聖人御伝記 (1615)
にちれんき 古浄瑠璃正本 承応3年(1654)
日蓮大聖人御伝記(11巻5冊) 延宝9年版 (1681)
大聖人御伝 大石寺日精 (1683)
日蓮大菩薩御一代記 英雲 天和3年(1683)
蓮公行状年譜 豊臣義俊(法華霊場記) (1685)
元祖一代暦 安国日講(録内啓蒙) (1702)
本化別頭高祖本紀 六牙日潮(本化別頭仏祖統記) (1731)
本化別頭高祖伝 智寂日省 (1736)
日蓮御一代記 (1736)
いろは日蓮記 近松門左衛門 延享4年(1747)
日蓮記児硯(ちごすずり) 近松門左衛門 寛延2年(1749)
日蓮大上人御一代記(浄瑠璃) ( )
日蓮上人御法海 並木鯨児・正三 寛延4年(1751)
元祖御一代記 称理日東 (1765)
本化高祖年譜、同攷異 健立日諦・玄得日耆 (1779)
高祖紀年録 深見要言 寛政7年(1795)
高祖累歳録 〃 ( )
本化高祖紀年録 〃 ( )
日蓮大菩薩記 加倉井忠珍 寛政9年(1797)
高祖御一代記 英 文蔵 寛政12年(1800)
日蓮大上人御和讃 さんか屋 享和1年(1801)
絵本日蓮大士御一代記 村田屋治郎兵衛 享和3年(1803)
絵入日蓮一代記 堺屋仁兵衛 享和3年(1803)
日蓮大菩薩御一代図会 享和3年(1803)
日蓮上人行状図会 中川采義 文化9年(1812)
高祖日蓮大菩薩略縁起 文化15年(1818)
日蓮上人一代記 柳水亭種清 文化? ( )
日蓮聖人御一生記 石川流宣 文政7年(1824)版
日蓮大聖人御一代実記 華房兵蔵 柏葉堂 天保4年(1833)
本化応迹門紀年輯録 妙慈日運 天保9年(1838)
弘化新刻本化高祖年譜 英園日英 弘化4年(1847)
〃 〃 攷異 〃 ( )
高祖朝日衣 万亭応賀 嘉永2年(1849)
日蓮上人一代図会 中村経年 安政5年(1859)
日蓮大士真実伝 小川泰堂 慶応3年(1867)
日蓮聖人御一代記図絵 宇喜多小十郎 京都村上勘兵衛 1880. 7
日蓮上人御一代記 羽田富次郎 児玉弥七刊 1881. 6
日蓮大菩薩真実伝 友鳴吉兵衛 大阪華本文章堂 1881.11
日蓮上人御一代記 伊東日現 法苑山浄心寺 1885. 4
日蓮大菩薩聖迹図伝 暁斎画 増田吉兵衛 1888. 9
日蓮上人御一代記 永田文二郎 1886.11
日蓮上人一代図絵 中村経年(北斎画)吉田金兵衛刊 1888. 9
日蓮上人真実伝 清水義郎 金寿堂 1889. 4
日蓮上人 幸田露伴 博文館 1894. 2
日蓮論 高橋五郎 前川文栄閣 1905. 3.10
日蓮聖人伝 蜷川龍夫・菊池茂 文明堂 1905. 4.10
日蓮大士 足立栗園 警醒社書店 1906. 4. 5
日 蓮 村上浪六 平楽寺 1908.12. 5
日蓮聖人霊蹟写真帖 荒木秀明 京都村上勘兵衛 1910. 7
日蓮論 木下尚江 誠信堂書店 1910.11. 3
日蓮聖人伝 蜷川竜夫 興文館 1911. 6
日蓮上人 熊田葦城 報知社 1911.11. 7
日蓮上人一代記 中村蝶二 鐘美堂 1911.11
日蓮聖人御伝 妹尾 朔 平楽寺書店 1912.11.26
日蓮上人自叙伝 国友日斌 文生閣 1913. 5. 5
実説日蓮一代記 村田勝太郎 中央書院 1913.10.22
日蓮上人 笹川臨風 同文館 1915.12.21
日蓮上人 坂本箕山 成光館 1916. 9.30
法華経の行者日蓮 姉崎正治 博文館 1916.10. 7
日蓮聖人の法華経色読史 蛍川藍川 佐藤出版部 1929. 4.28
日蓮聖人伝十講 山川智応 新潮社 1921. 7.10
古今大家日蓮聖人御伝記説教集(上中下)平楽寺書店 1925. 1.15
日蓮聖人御自伝 鈴木一成 隆文館 1926. 4. 8
日蓮本仏論 福重照平 大日蓮社 1927. 9.28
大国聖日蓮上人 田中智学 春秋社 1929. 3.23
絵入日蓮大聖人伝 持徳院日眠 朝日書房 1929. 7.25
予言者日蓮 中村吉蔵 近代社 1930. 6.23
戯曲日蓮上人 山本勇夫 中央出版社 1930. 9.15
勤王日蓮大上人 磯島品造 (非売品) 1931. 4. 8
時宗と日蓮 沢田謙 地踏社 1932. 2.15
日蓮上人 須藤光輝 盛文館 1923. 4. 8
詩画伝日蓮上人 山崎紫紅 朝日書房 1933. 7.20
聖教浪曲日蓮大聖人 植竹龍山 報恩社 1935.12.12
日蓮聖人の生涯 清水龍山 仏教年鑑社 1936. 4.28
日蓮 三上於莵吉 黎明社 1936. 6.25
祖国を護る日蓮 光永史朗 上田屋書店 1936. 9. 3
日蓮聖人自叙伝 宇都宮日綱 日蓮宗布教助成会 1936.10.13
日蓮聖人 南海夢楽 春江堂 1937. 7.20
日蓮聖人 山川智応 新潮社 1943. 1.27
日本人日蓮 本山荻舟 天祐書房 1943. 3.10
新版日蓮上人正伝 千葉県教育会 千葉県教育会 1943. 5.18
荒旅に立つ--日蓮 佐木秋夫 月曜書房 1948. 3.30
日蓮聖人正伝 鈴木一成 平楽寺書店 1948.11.20
日蓮 大仏次郎 東和社 1951.
日蓮聖人霊蹟寶鑑 竹下宣深 霊蹟寶鑑頒布会 1951. 2.16
日蓮大聖人の教え 山峰淳 大日蓮編集室 1952.11.15
小説日蓮大聖人 湊邦三 聖教新聞社 1952
人間日蓮(第1部) 沙羅双樹 北辰社 1953. 9.30
日蓮 大野達之助 吉川弘文館 1958.10.20
日蓮・その生涯と足跡 小川雪夫 錦正社 1961. 8.28
日蓮の歩んだ道 宮尾しげお 第二書房 1962. 7.15
日蓮聖人小伝 高橋智遍 師子王学会出版部 1962.10. 1
日蓮聖人の生涯 竹内成行 山喜房仏書林 1963. 2.13
富士日興上人詳伝 堀日亨 創価学会 1963.10.24
日蓮教団全史 上 平楽寺書店 1964.
日蓮 山岡荘八 東方社 1964.10.10
日蓮とその門弟 高木 豊 弘文堂 1965. 4.10
日蓮聖人の生涯 成川文雅 共栄書房 1966. 7.31
日蓮 川口松太郎 講談社 1967. 4.28
日蓮聖人御伝 久保田正文 大法輪閣 1967.10.10
日蓮--その生涯と思想 久保田正文 講談社 1967.12. 6
富士門徒の沿革と教義 松本佐一郎 大成出版社 1968. 2. 5
日蓮大聖人伝 日蓮正宗栄光会 和光社 1970. 9.12
日蓮 中島尚志 三一書房 1970.10.31
日蓮 川添昭二 清水書院 1971 .
日蓮 その生涯とこころ 菊村紀彦 社会思想社 1971. 7.30
日蓮とその弟子 宮崎英修 毎日新聞社 1971.12.10
日蓮 紀野一義 淡交社 1973. 5.20
日蓮の伝記と思想 日蓮宗現代宗教研究所 隆文館 1975. 7.10
日蓮 殉教の如来使 田村芳朗 日本放送出版協会 1975.10. 1
鎌倉と日蓮大聖人 鎌倉遺跡研究会 1976. 6.25
日蓮聖人 久遠の唱導師 岡本錬城 法華ジャーナル 1977.10.13
日蓮と「立正安国論」 佐々木馨 評論社 1979. 4.20
日蓮聖人の歩まれた道 市川智康 水書房 1981.12. 8
§ §
千葉県古事志 嶺田 雋 天保14 (1643)
富士見十三州輿地 安房・上総 秋山永年 天保14 (1643)
房総志料 中村国香 宝暦11年 (1761)
北行日記 高山彦九郎 寛政 2. 6.18 (1790)
房総志料 鶴岡安宅 寛政 5 (1793)
沿海測量日記 伊能忠敬 寛政13. 7 (1801)
方言修行金草鞋十七編 十返舎一九 文政10. (1827)
房総志料続編 田丸健良 天保 3. 4.15 (1832)
房総一覧志 邨岡良弼 天保 9. 8.10 (1838)
浪淘集 梁川星巌 天保12. 3 (1841)
北越雪譜 鈴木牧之 天保13 (1842)
蓮祖舊跡志 堀江是顕 弘化 2. 6 (1845)
房総遊覧志 中村国香著 堀江是顕訂 深川元儁校・増補 弘化2(〃)
房総郡郷考 鳥海酔車 嘉永 3 (1850)
南遊紀行 克庵處士 嘉永 6. 6 (1853)
房総名勝一覧 上原有念 文久 3 (1863)
観海漫録 小川泰堂 明治14. 4.24 (1871)
南遊詩草 並木正韶 明治21.11 (1888)
房総遊乗 邨岡良弼 明治29. 8 (1896)
房総地誌撮要 岡本運広
観世流謡本「身延」 丸岡明 観世流改訂本刊行会 1940. 6.15
〃 「現在七面」 丸岡明 観世流改訂本刊行会 1941. 3.30
§ §
昭和新修日蓮聖人遺文全集 浅井要麟 平楽寺書店
昭和定本日蓮聖人遺文 立正大学日蓮教学研究所 久遠寺
日蓮大聖人御書全集 堀日亨 創価学会
日蓮聖人真蹟集成 法蔵館
§ §
大日本地名辞書 吉田東伍 富山房
日本歴史大辞典 河出書房
稿本千葉県史 千葉県 名著出版
鎌倉市史 総説編 鎌倉市史編纂委員会 吉川弘文館 1959.10.20
静岡県史1~3 静岡県 名著出版
駿河志料 二 中村高平 歴史図書社
富士市史 上 富士市史編纂委員会 富士市
神奈川県大観 石野瑛
群書類従(第18輯)
中世日記紀行集(新日本古典文学大系51) 岩波書店 1990.10.19
律令(日本思想史大系3) 岩波書店
交通史(体系日本史叢書24)豊田武・児玉幸多編 山川出版社 1970.12.25
鎌倉街道Ⅰ(歴史編) 栗原仲道 有峰書店 1976. 1.20
五街道細見 青蛙書房 1959. 4.25
古代船の復元(歴史への招待6)石井謙治 日本放送出版協会 1980. 4. 1
年・月・日の天文学 広瀬秀雄 中央公論社 1973.3.25
星の古記録 斉藤国治 岩波新書 1982.10.20
富士の歴史 井野辺茂雄 古今書院
富士山 木澤・飯田・松山・宮脇 日本放送出版協会 1969. 6.20
富士川 遠藤秀男 静岡新聞社 1981. 1. 8
富嶽歴覧 伏見功 現代旅行研究所 1982. 4.20
富士山 岡田紅陽・大岡信・芹澤早苗 新潮社 1987. 1.20
富士山の四季を撮る 紅陽会 講談社 1993.12. 3
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